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まったく、リミテッドは最高だぜ!!

リミテッドをはじめからていねいに――マジックの黄金律の巻

突然ですが、アナタは「Magic: The Gathering」のゲームに勝つ秘訣を知っていますか?

 

「知ってるぜ。アニメのことを考えてれば良いのさ」

 

正しい。アナタは中々に通ですね。きっと、トーナメントシーンの情報をよく集めていることでしょう。
勝負事の常として、ティルトを防ぐのは大切なことです。より一般化すると、平常心を保つ工夫をしようってことですね。
その意味で言えば、好きなアニメのキャラクターについて考えたり、ゲーム前のルーチンワークを決めておいたりするのは、特に長丁場のトーナメントなどで有効と言えるでしょう。
かくいう私も、マジック・オンラインでプレイする時など、飽きるまでは大体いつも同じBGMを流しています。

 


直近のBGM(オススメ!)

 

でも、今回お話したい内容とは少しズレているので、それについては深く突っ込まないことにしましょう。
エロゲソングメドレーも良いが、やはりアニソンメドレーの方がより勝てるとか、そういう盤外のことを考えたい訳ではないです。
徹頭徹尾マジックというゲームの枠組みの中についてのもの。
今日なのか、明日なのか、あるいは近いうちなのか、とにかく次にアナタがマジックをプレイする時に、目の前の1ゲームに勝つ指針を考えてみようと思います。

 

マジックをプレイすると言っても、どんなデッキを使うかも分からないし、フォーマットだって分からないじゃないか?
そう思ったなら、アナタは相応にトーナメントプレイをしてきた熟練者でしょうね。
もちろん、マジックのゲームに勝つ方法はデッキ毎に千差万別ですし、さらに言えば同じデッキにおいてすらマッチアップ毎に焦点となるカードは変わります。
だから、大会前には自分の使用デッキをよく使い込み、またメタゲーム上に存在するデッキも使ってみて対策を練るなど、十分な鍛錬を積む必要がある……時間は有限なのに?

 

勝つために練習が必要なのは確かですが、長年その類のデッキを使い込んでいるプレイヤーが、グランプリなどの大きなトーナメントで多様なフォーマットを扱うプロプレイヤーに負けることは間々あります。
勝負は時の運であると切り捨てることも可能ですが、必ずしも十全な練習を積めなかったとしても、それなりの成績を上げ続けるプロという存在は、やはりマジック全般に通じる何かの存在を示唆しているのではないでしょうか?
そこでタイトルに戻るわけです。リミテッドをはじめからていねいに。
常勝プレイヤーになる早道は、リミテッドをたくさんプレイし、安定して勝てるようになることだと言います。
本連載の趣旨は、そのリミテッドで勝つためのエッセンスを、少しずつ文章に起こしていくことです。

 

さて話を戻しまして、初回にあたる本記事では、目の前の1ゲームにどうすれば勝てるかを考えていきます。
堂々巡りになる前に結論を述べましょう。どんなデッキを使っていようと、どんなフォーマットでプレイしていようと、マジックにおいて目の前の1ゲームに勝つ方法とは――

 

まさにアナタが勝利条件を満たす1ターンを稼ぐ

 

たったのこれだけです。
アドバンテージ? テンポ? クロック? そんなものは、マジック全般から見れば瑣末な問題に過ぎません。
マジックのルールに則ってゲームの勝敗を決する限りにおいて、アナタが目指すべきは、アナタが勝利条件を満たす1ターンを稼ぐことだけです。
たったの1ターンで十分。どんなに劣勢で、ターンを返せば負けが確定していようと、その1ターンでゲームは終わり、アナタは対戦相手に勝ってしまうのですから。
分かりやすい例を出しましょう。

 

 

向かって右手の Olivier Ruel は盤面を完全に掌握し、あとは Craig Jones のライフをゼロにするべくクリーチャーで殴るだけの状態になりました。
Craig Jones は盤面を挽回する手段がデッキ中になく、手札も《黒焦げ/Char》たった1枚だけ。座して死を待つに近いと言えるでしょう。
しかし、Craig Jones は手札の《黒焦げ/Char》を Olivier Ruel 自身に撃ち込みます。なぜなら Craig Jones には、たったの1ターンですが、絶対に負けがなく、しかもカードを1枚引けるターンがあったからです。
それすなわち、自分のラストターン。そして、Olivier Ruel の残りライフは3点。Craig Jones のデッキには、1枚ですぐにその3点を削り切る手段がありました。トップ、《稲妻のらせん/Lightning Helix》。たったの1ターンがあったことで、絶対に負けの盤面だった Craig Jones は勝利を手にしました。
そう、Craig Jones は勝利条件を満たす1ターンを稼ぐことに成功し、Olivier Ruel はそれに失敗したのです。
もし、前のターンに Olivier Ruel が Craig Jones のライフをゼロにしていれば、この《稲妻のらせん/Lightning Helix》が Olivier Ruel のライフをゼロにすることはありませんでした。どこかで、 Craig Jones に無駄な1ターンを費やさせたり、自分の無駄な1ターンがなければ、勝利は Olivier Ruel のモノだったでしょう。

このように、マジックというゲームの本質は、勝利条件を満たす1ターンの稼ぎ合いです。そして、アナタが取るアクションは、すべてターンを稼ぐこと以外の意味を持たないのです。
いやいや、マジックのカードには色々な効果があるから、一概にターンを稼ぐことだけを意味してはいないんじゃないか?
ええ、確かに様々な効果のカードがあってこそのマジックです。例えば《Time Walk》のように、そのものズバリ1ターンを稼ぐと書いてあるカードもあれば、そうじゃないものもあるでしょう。
しかし、ターンを稼ぐという観点でそれぞれの効果を解釈していないならば、それは本質を大きく見誤っています。

 

試しに、クリーチャーの展開が、如何にターンを稼いでいるか実証しましょう。
お互いに《山/Mountain》だけからなるデッキを使っていて、お互いの場にゲーム開始時から《ゴブリンの突撃/Goblin Assault》が設置されているゲームを想像してみてください。
さて、コイントスの結果、アナタが先攻になりました。アナタはこのゲームに勝てるでしょうか?
ご明察。もちろんアナタの勝ちは確定です。アナタは先攻で、どんなにカードを引いても互いに《山/Mountain》しか出せないのですから、アナタが丸々1ターンを稼いだに等しい状態でゲームは開始されます。ならば、絶対に対戦相手より1ターン早く勝利条件を達成できます。
(この「ゴブリンの突撃ゲーム」において、先後を決めるコイントスこそが勝敗を決めます。少し横道に逸れますが、実際のゲームでもマッチアップの特性的に似た状況はあるでしょう? 皆が多くの場面で先攻を取りたがるのは、こういう理由からなんですね。)

では次に、ほぼ同じ条件の別のゲームを考えてみましょう。
デッキ内容と場は一緒ですが、いつも対戦相手だけ初手に1枚《発明者の見習い/Inventor’s Apprentice》を持っているものとします。ゲームの結果はどうなりますか?
えぇ。こうなってしまうと、対戦相手が壮絶な間違いを起こさない限りは、先攻か後攻かに関係なくアナタの負けです。
すなわち、対戦相手は1ターン目に《発明者の見習い/Inventor’s Apprentice》をプレイし、以降ずっとアナタの《ゴブリンの突撃/Goblin Assault》が生成するゴブリン・トークンを《発明者の見習い/Inventor’s Apprentice》でブロックし続けます。アナタの場にある《ゴブリンの突撃/Goblin Assault》はデクに成り下がり、《山/Mountain》を並べるだけに等しいターンが過ぎ、しばらく後にアナタは敗北します。
このとき、《発明者の見習い/Inventor’s Apprentice》の働きは、対戦相手にとって毎ターン《Time Walk》を唱えるのと殆ど同義です。つまり《発明者の見習い/Inventor’s Apprentice》は、アナタのターンをスキップ同然の状態に陥れることで、対戦相手が勝利条件を満たす1ターンを稼ぎ出しているのです。
どうでしょう? クリーチャーの展開はターンを稼ぐ行為そのものでしょう?

 

 ≒  ✕ n

 

では、もう少しゴブリンの突撃ゲームを使って、色々なカードが稼ぐターンを見て行きましょう。
アナタは不幸にもゴブリンの突撃ゲームで後攻になってしまいました。このままでは赤塗りの高級トークンで「アッー!」となります。しかし、アナタは日頃の行いが良かったので、神様が助け舟を出してくれました。なんと、デッキの中身がすべて《平地/Plains》になり、しかも初手に必ず1枚《治癒の軟膏/Healing Salve》があるのです。
さて、ゲームの結果は言うまでもありませんね。マジックは神様に愛された方が勝つゲームなので、致死ダメージを受ける前に《治癒の軟膏/Healing Salve》でライフを回復するか、ダメージを軽減して常にアナタが勝ちます。
この《治癒の軟膏/Healing Salve》はターンを稼いでいるでしょうか?
もちろん稼いでいます。対戦相手の1~2ターン目、もしくは3ターン目のゴブリン・トークンの攻撃に相当するダメージを軽減するか、それと等しい3点のライフを回復する訳ですから、対戦相手のそのターンをスキップさせたようなものです。
(少し捻った考え方になりますが、対戦相手が6ターン目までにアナタへ与えるダメージの総計は21点なので、アナタが《治癒の軟膏/Healing Salve》を使って23点の総ライフを持つことにより、アナタが攻撃できる「後攻6ターン目」の1ターンを稼いでいるとも言えます。)

 

それから、別の日にやったゴブリンの突撃ゲームでも、アナタは後攻ながら神様に愛されます。
今度の神様は初手に必ず1枚《溶岩の斧/Lava Axe》があるようにしてくれました。
アナタはこれを5ターン目に対戦相手へ「そらよッ!」とやって、やはり必ず勝つことができます。《溶岩の斧/Lava Axe》が稼ぐ1ターンは、先の《稲妻のらせん/Lightning Helix》と同じなので分かりやすいですね。
他にも、ゴブリンの突撃ゲームを少しアレンジすることで、様々なカードがターンを稼いでいる様は観察できます。
《森/Forest》と《樫の力/Might of Oaks》。《沼/Swamp》と《恐怖/Terror》。クリーチャーも、ライフゲインやプリベントも、パンプアップも、火力も、除去も、煎じ詰めればアナタが勝利条件を満たす1ターンを稼ぐための手段なのです。
カードが持つそれぞれの効果は、アナタを対戦相手より数ターン先じさせるか、対戦相手に数ターンを浪費させるものと読み替えられる訳ですね。

 

マジックで勝つとは、それらのカードの組み合わせによって、できる限りのターンを稼ぎ、最終的に勝利条件を満たす1ターンを稼ぐことです。
ここで面白いのは、カードの効果の優劣とは関係なく、使い方や状況で稼げるターン数が変わるという点にあります。
分かりやすく例を出しましょう。先の後攻になってしまったゴブリンの突撃ゲームで、神様が《溶岩の斧/Lava Axe》ではなく《爆発の衝撃/Explosive Impact》1枚を持たせてくれたとします。インスタントだし、除去にもなるし、多くの場面で後者の方が有用なカードでしょう。
しかし、アナタは「無用の長物じゃねーかよ」と思うに違いありません。
その通り。《溶岩の斧/Lava Axe》はアナタを必ず勝たせる1枚ですが、《爆発の衝撃/Explosive Impact》は《山/Mountain》と何ら変わりません。より優秀なカードは《爆発の衝撃/Explosive Impact》であるのに、ゴブリンの突撃ゲームにおいては立場が逆転するわけです。
なぜでしょう? 単純に6マナを揃える前にアナタは敗北してしまうからですね。
これが使い方や状況によって、稼げるターン数は変わるということです。《溶岩の斧/Lava Axe》なら稼げる1ターンは、《爆発の衝撃/Explosive Impact》だと絶対に稼げない。カードの優秀さと、それがゲーム中に稼ぐターン数は異なるのです。

 

ここにリミテッドを練習する意味があります。
リミテッドで用いるカードは、構築で用いるそれよりずっと弱く、ほとんどのカードが1ターンを稼げるか否かぐらいの効果しか持ちません。場合によっては、1ターンも稼ぐことができず、カードをプレイしているのにターンをスキップしたに等しいこともあるでしょう。
しかし上手いプレイヤーは、それら弱いカードによってターンが稼げるタイミングを見逃しませんし、むしろそういったタイミングを作り出します。そして、抜群のタイミングで使うことにより、1ターンなりそれ以上なりを稼ぎ出し、その積み重ねの末に勝利条件を満たす1ターンを稼ぎ切るのです。
この技量は、当然ながら構築においても有用です。弱いカードでターンを稼げるなら、強いカードでそれを稼ぐなど容易いこと。さらに言えば、同じ強いカードでも、より多くのターンが稼げる。となれば、勝利条件を満たす1ターンの稼ぎ切りやすさは、言わずもがなでしょう。

 

さて、このあたりで今回の話をまとめます。
「Magic: The Gathering」のゲームに勝つ秘訣とは――

 

1つ1つのカードで可能な限り多くのターン数を稼ぎ出す

 

ことです。そして、その手法を磨く早道がリミテッドとなります。
本連載の趣旨、リミテッドで勝つためのエッセンスとは、つまり色々なカードからターンを稼ぐ方法に相違ありません。
注意したいのは、これはカードの使い方だけの問題ではないということです。
先に使い方や状況で稼げるターン数は変わると書きましたが、状況がカードの稼げるターン数に影響するなら、よりターン数の稼げる状況を作りやすいデッキが組めることも、勝つために必要な資質となります。
つまり、1枚1枚のカードの使い方だけでなく、強いデッキをドラフトできる能力なども、押さえなければならない要素になるのです。
と言っても次回はまだ、1枚のカードによってターンが稼がれる様を扱うことになると思います。
腕の良いプレイヤーの方であれば、勝利条件を満たす1ターンを稼ぐための手段として挙げた例の中に、マジックを語る上で欠かすことのできないカードの種類が抜けていると気付いたかもしれませんね。

 

次回、勝利に繋がるドローの巻。
素敵なひとときを、ご一緒しましょう。